【その22】
流星

※とある連邦メカニックマンの自伝

275: 整備員(275) 01/11/25 17:00
「アルファ中隊、01から03、射出位置につけ。整備員は退避せよ!総員退避せよ!」 

管制官のアナウンスがコムリンクに入り、カタパルト室に警告色の赤ランプが点滅する。 

おっと、いけねぇ。いくらノーマルスーツを着ていても、バーニヤの全力噴射を至近距離でくらったら、宇宙の果てまでふっとばされちまう。 

俺は、待機室に急いだ。 そして、後ろ手にドアを閉めると同時に、ゴーっという振動が伝わってきた。窓のすぐ外をMSの巨体が、ものすごい勢いで通り過ぎていく。 

「アルファ01-03、直衛位置で待機せよ。アルファ01-06射出準備!」 

次々とMSが打ち出されていく。戦いの場に向かって。俺には無事を祈ることしかできない。俺達の整備した機体。全機無事戻ってきて欲しいと祈る。 

「チャーリー中隊射出完了。ハッチを閉鎖する」 

巨大なハッチが閉まる。音の伝わらない真空中。振動だけが床伝いに伝わってくる。俺たちはすばやく飛び出し、カタパルトのチェックと、着艦拘束具の準備に入る。 

そのとき、「ゴン」という軽い衝撃。そして、ハッチが軋み出した。 

「こちらBカタパルト室。ハッチに何か当たったらしい。船外カメラに何か写っているか?」 

俺はコムリンクに向かって叫ぶ。


276: 整備員(275) 01/11/25 17:02
「こちらブリッジ。チェックする・・・ うわぁ!。MSが・・・MSが取り付いている!」 

その答えよりも早く、ハッチをこじ開けようと差し入れられる、巨大な指が見えてきた。「メリメリメリ・・・」不気味な振動が足に伝わってくる。 

「逃げろ、みんな逃げろ!!」

俺は叫んだ! その瞬間だった。機関砲弾の直撃にも耐える、特殊合金製のハッチが、紙のようにはがされる。そしてMSが、文字通り踊りこんできた。 

俺達には目もくれず、格納庫のほうへザクマシンガンを乱射しながら、ものすごい勢いで突っ込んでいった。そして、奥のほうで大爆発。 

俺は壁を蹴り、ハッチの残骸の向こうに拡がる、暗い空間へ向かって飛び出した。他に、何人かの整備員も一緒だった。 固まって飛び出した俺達のすぐ横を、入ってきたのと同じような勢いで、ザクが3機飛び出してきた。 

バーニヤのあおりをくらって、木の葉のようにもまれる俺達。上も下もない宇宙。方向を定めようと、俺達の乗艦を探す。その時だった。恐ろしい光景を目にしたのは。 

まずは格納庫と弾薬庫から、閃光が走った。次に機関部が大爆発をした。次の瞬間、バイザーをおろしていなければ、目が焼けたのではないかと思われるくらいの閃光を放つ、巨大な火球と化していた。

続いて、ものすごい勢いで破片と衝撃波がやってきた。いかに真空の宇宙とはいえ、爆発で生じた高温高速なガスの流れは衝撃波としてやってくる。

そして目の前で別の整備兵のノーマルスーツが、圧力に耐え切れず破裂した。巨大な破片の直撃をくらい、胴体が真っ二つになった奴もいた。

277: 整備員(275) 01/11/25 17:03
無限にも思える時間が過ぎた。

気が付くと、瞬かない星に見つめられ、宇宙は平穏を取り戻していた。時折、味方艦隊と敵艦隊の間で、砲撃の閃光が音もなく光った。 

あたりを見渡すと、3人の整備兵が同じように漂っているのが見えた。コムリンクに呼びかける。だが、さきほどの爆発によるEMP
(電磁パルス)ショックの影響が消えないのか、レシーバーから聞こえるのは空電だけだった。 

スーツのポケットから宇宙銃を取り出し、整備兵のうちの一人と反対に向けて、わずかに噴射する。すこしづつ加速がついていく。やがて、姿が見えた時、俺は絶句した。 

遠めには無傷に見えたノーマルスーツのフェイスシールドが割れており、中の人間は自らの圧力に耐え切れず、破裂していた。あっというまに沸騰して蒸発した血のあとが、スーツの中にべっとりとついていた。 

俺は、遺体のスーツから認識票だけを毟り取り、ポケットに入れた。見ると、この前入ったばかりの新入りだった。いつも、「ヤベぇな、最前線に配備されちまったよ」と、仲間にこぼしていた笑顔を思い出した。 

だが、ここは落ち着いているとはいえ戦闘空域だ。感傷的になっている時間はない。 

もう一人の整備兵に向かって、宇宙銃を噴射して向かう。コムリンクに呼びかけると、雑音の中から返事が聞こえ、手を振るのが見えた。 

このままの勢いでぶつかると、慣性の法則で突き飛ばしてしまうことになる。宇宙銃を反対向きに持ち替え、逆噴射をはじめた時だった。 

目の前を巨大な閃光がきらめき、奴は文字通り蒸発していた・・・。 

一瞬、何が起こったのかわからなかった。 その閃光の元をたどると、味方艦だった。そしてその先には、敵艦が誘爆を起こしてちょうど沈むところだった。 

艦対艦の戦闘空域では、人の命などムシけら同然ってことか・・・。 

俺はやり場のない怒りが込み上げてきた。

278: 整備員(275) 01/11/25 17:04
最後の整備兵の元へ向かう。

コムリンクには応答がない。いやな予感が走る。 

ほどなくして近づく。見たところスーツに外傷はないようだが・・・黒いバイザー越しにフェイスシールドをのぞきこむ。長い髪が見えた。はっ、と息を呑んだ。 

先日配属されたばかりの、紅一点のリーナ曹長だった。

だが、生死はわからない。もしかして・・と不安にかられながらシールドのバイザーを上げると、顔色は蒼白で目は堅く閉じられていながらも、シールドの内側が呼気にあわせてわずかに曇っているのが見えた。 

よかった。俺は安堵のため息をついた。スーツ越しに、手をにぎり肩を揺さぶる。しかし、体を固定していない無重力なので、俺の体が振られるばかりで、うまくいかない。 シールドをグローブで軽く叩いてみる。 

やがてリーナ曹長は、ゆっくりと目を開けた。そして口が動いているが、コムリンクには何も聞こえてこない。あの衝撃で故障してしまったに違いない。 

俺はお互いに抱き合うような格好で体を固定し、フェイスシールド同士をくっつける。これで空気の振動がシールドにつたわり、会話ができるはずだ。

リーナ曹長の端正な顔が目の前にあり、一瞬どきっとする。 

「わ・・・わたし、助かったんですね? 他の・・・他の方たちは? ロイアックは?」 

二枚のシールド越しに、まるで糸電話のような、ビリビリいう音質で声が伝わってきた。

ちなみにロイアックというのは、俺達の乗艦の名前だ。

282: 整備員(275) 01/11/25 21:10
「連邦軍人だろ?落ち着け」 

残酷な事実を伝える前に少しでも安心させたかったので、彼女の体を抱きしめた。 薄い素材のスーツ越しに、体のやわらかさが伝わってきた。そして、淡々と事実をのべた。 

「ロイアックはあっというまに爆発した。脱出ポットを出す時間もなかったみたいだ・・・。 今、生きているのは俺達だけみたいだ。 それに、ここは戦闘空域の真っ只中だ。まだ、助かったわけではない」 

「う・・・うぅ・・」 

彼女のすすりなく声が、シールドごしに伝わってきた。 

俺には、そのまま抱きしめることしかできなかった。こんなに近くにいるのに、真空の宇宙空間を隔てているため、ぬくもりを分かつこともできなかった。 

どのくらいの時間が経っただろう。やがて砲火が遠くなり、敵に傍受される危険もなくなってきたので、緊急救難信号のスイッチを入れた。壊れていなければいいが・・・。 

そしてスーツのポケットから信号弾を出し、味方の艦隊のほうにありったけ打ち上げた。 

リーナ曹長の体をしっかりと抱いて、宇宙銃を艦隊と反対に向けて全力噴射した。だがそれは、咳き込むような音とともに、すぐにガスがなくなってしまった。

俺はそれを思いっきり投げた。反作用で少しは加速されることを期待して。 

味方艦隊は戦艦は引き上げ、駆逐艦だけが残って、生存者の捜索活動をしているようだった。だが内火艇は、俺達のほうに一向に来ようとはしない。 

スーツの生命維持装置のバッテリーも酸素も、そう長く持つわけではない。現に、本来シールドが曇らないように調整されているはずだが、リーナ曹長の顔がほとんど見えないくらいに曇っている。

中はだいぶ息苦しく、蒸し暑いはずだ。

283: 整備員(275) 01/11/25 21:12
「い・・・息苦しいです・・・」 

リーナ曹長が苦しげな声を漏らす。 

俺は正直、胸が締め付けられるような思いを味わった。

CO2触媒の水酸化リチウムが、酸素がもう限界に近づいているようだ。だが、予備のカートリッジは無い。そして目の前にいるのに、真空の宇宙の中では何もしてやることもできない。 

「リ・・・リーナ・・・呼吸をなるべく浅くしてもたせるんだ。あまりしゃべるな・・・」 

俺は意を決した。俺のスーツの循環系のバルブを閉じた。これで、安全に酸素ボンベと触媒カートリッジが外せるる。 

>>275さんっ!」 

リーナは曇ったシールド越しにそれを見て驚く。俺は息苦しい中、無理に平気な顔を作り、言った。 

「ボンベをはずしても、スーツの中には20分ぶんくらいの酸素は残ってる。だから、死にはしないさ。二人で助かろう。」 

そう言って笑顔を作る。すっかりシールドが曇り、ほとんどリーナの表情はみえなかったが、目にきらりと光る涙が見えた。 

リーナのスーツも循環系を一時停止して、バルブを閉めて、俺のスーツから外した酸素ボンベとカートリッジを交換する。そして、循環系を再起動させようとする。 

しかし、ポンプのモーターは苦しそうな音をたてるだけで、起動しない。

バッテリーの警告ランプが点る。

俺は苦しい息の下、俺のスーツのコントロールパネルの外板をはがし、バッテリーのターミナルを露出させる。そして、不要な回路の電線を外した。リーナのスーツにも同じようにして、外した電線で端子と端子をつないだ。 

一瞬、火花が飛び散った。それと同時に、力強いモーターの音が伝わってきた。 

みるみるフェイスシールドの曇りが取れて、リーナの呼吸が落ち着いてきた。

284: 整備員(275) 01/11/25 21:16
>>275さん・・・なんと言っていいか・・・。」 

だがそれと裏腹に、俺の方は息苦しくなってきた。そして脳天に、しびれるような間隔がひろがる。俺のほうは、もってあと10分といったところだな・・頭の中でざっと計算する。 

相変わらず、内火艇はあさってのほうを探している。その時、リーナのスーツの腰につけられたものに、目が引き寄せられた。俺は苦しい息の中、つぶやいた。 

「リ・・・リーナ、その信号弾を・・・内火艇のほうに向かって撃つんだ。」 
「は・・・はいっ!」 

そして漆黒の宇宙に、鮮やかな光の尾がたなびいた。 

薄れ行く意識の中、ランチが向きを変え、発光信号を明滅させながら近づいてくるのが見えた。 

285: 整備員(275) 01/11/25 22:15
気が付くと、白い天井がゆっくりと回っているのが見えた。 

見覚えのないベッド。そして頭が割れるように痛い。

「典型的な二日酔いだな・・・」そう思って、ベッドから降りようとした時、初めてリーナ曹長が心配そうに俺の手を握って、俺の顔を覗き込んでいるのに気付いた。そして、口にはマスクがはまっているのにも。 

「お・・・俺、どうしたんだ?」 

おもわずつぶやいた。リーナ曹長の目から涙が伝わり、俺の頬に落ちる。 

「3日間、ずっと意識がなかったんです。一時は二酸化炭素中毒で、危ない状態だったって・・・」 

その言葉が終わる前に、リーナ曹長は俺の胸にすがりつき、泣き崩れた。

声を聞きとめてか、看護兵がやってきた。 

「ささ、リーナ曹長もお休みください。休んでないんでしょ? >>275さんもすみに置けませんね。彼女、ずっとあなたのそばにいたんですよ。そう、ずっとね・・・。あなたも、少し休んだらどうです?まだ病み上がりなんですからね」 

何かの配慮からか、それとも単に病床数が足りないのか、リーナ曹長は俺の隣のベッドにもぐりこんだ。

そして、わずかに顔を赤らめながら、小さな声で「おやすみ」と言った。 

286: 整備員整備員(275) 01/11/25 22:16
やがて迎える終戦。

結局、俺達は後送されたまま、最前線に出ることは二度となかった。 

終戦と同時に俺は退役し、自動車の整備工場をやることにした。工場の壁には、ボロボロのノーマルスーツが二着並んでかけられている。たまに、修理を依頼に来た客がそれを見つけて、「これはなんだい?」と聞くことがあった。

俺は決まって、こう答えることにしている。 

「ああ、俺とかみさんが付き合うきっかけになった、記念品・・てところかな」 

「ほほう、おやっさんも退役軍人かい。どこの所属だったんだい?」 

「おう、良くぞ聞いてくれた」 

つい長話をしていると、リーナの声がした。 

「あなた、ご飯よ・・・。」 

「おっと、失礼。あ、元少尉殿も、ご一緒にいかがですか?」 

「ああ、戦艦の話を肴に、いっぱいやらせてもらうことにしようか」 

FIN.

288: 通常の名無しさんの3倍 01/11/25 22:32
お幸せに。



※時系列を調べ調整しましたが、誤記あるかもしれません。特に記載のない引用は、wiki:一年戦争V作戦、および機動戦士ガンダム関連項目から行いました。

引用元:http://ebi.2ch.net/test/read.cgi/shar/977419002/
    http://ebi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1001266020/
    https://ebi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1009131953/